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東京都美術館ニュース No.472


Start 輝くあの人とartの素敵な出発点
  Interview
  賀来千香子
  KAKU Chikako



 数多くのドラマや映画、舞台に出演し、シリアスからコメディーまで、
 演じる役柄によってさまざまな魅力をみせてくれる賀来千香子さん。
 俳句や水彩画など多彩な趣味をもつ祖父の影響もあり、早くから
 芸術に親しんでいたという賀来さんに、好きな画家やアートの楽しみ方
 などについてうかがいました。




幼い頃から身近にあったアート

 祖父が水彩画や俳句などをたしなむ粋な人で、幼い頃から祖父の
 絵をみたり、縁側に座って一緒に月下美人の花を描いたりと、アート
 は私にとってごく身近なものでした。
 そんな環境のなか、在学生のご近所さんから「家庭的で良い学校よ」
 と聞いていたこともあって、女子美術大学付属中学校に進学。
 高校、短大と進み、デザイン・木工・陶芸・金属工芸を学べる生活
 デザイン教室を専攻、ジュエリーの制作などに没頭しました。
 アートとの関係で言えば、今では時おり水彩画を描く程度ですが、
 学生時代から油絵への憧れがあり、みるのは油絵がほとんどです。
 素晴らしい油絵からはインスピレーションが湧いてくるので、特に
 印象派・ポスト印象派の美術展には必ずといっていいほど出掛け、
 エネルギーをいただいています。




“本物”の凄みを直接味わいたい

 特に思い入れが強く、一番好きな画家は、学生時代に模写をしたことも
 あるセザンヌです。
 東京都美術館の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」(2019年)
 でもセザンヌの作品を数多く拝見し、その重厚感、立体感に目を奪われた
 ものです。
 同時に、モチーフを積み重ねて考え抜いて描いたことがうかがわれ、
 生みの苦しみのようなものも伝わってきました。
 今でこそ「近代絵画の父」と呼ばれていますが、生前は評価されない
 時期が長く、それでも自分の才能と向き合い、挑戦したい技法と当時の
 はやりの画風との間でもがき苦しんだとか。
 そんななかで魂を込めて作品を生み出したセザンヌをリスペクトせず
 にはいられません。
 コローも大好きな画家です。人物画の上手さもさることながら、コローの
 風景画には奥行きがあり、空気が澄み渡る様子や樹々のざわめきまで
 感じ取ることができます。
 “写実すぎない”のが私には魅力的です。
 今は美術館まで行かなくてもアートにふれることのできる時代ですが、
 本物の迫力や凄みは格別。
 間近からみることで共有できる画家の息吹、魂がふるえるほどの
 感動や刺激は何ものにも代えがたく、胸を打たれます。
 ですので“本物”を知るために出雲の足立美術館に行って横山大観
 コレクションを拝見したり、エル・グレコの絵をみるためだけに倉敷の
 大原美術館まで足を伸ばしたりしたことも。
 海外ではルーヴル美術館はもちろん、メトロポリタン美術館も好きですね。
 広々とした吹き抜けの「天窓広場」には陽光が降り注いで、ステンド
 グラスや銅像などが置かれており、空間そのものもアートとして
 楽しめます。






細部の筆致まで観察すると新たな発見が

 美術館に行く時は、万全の状態に心身を整えて「さあ、行こう!」と
 張り切ってのぞみます。
 荷物は軽めにして、歩きやすいスニーカーも必須。
 音声ガイドを聴き、パネルの解説を一つひとつ読みながら順路を
 進んでいきます。
 何ひとつ見逃したくない、聞き漏らしたくないので、3時間くらい
 かかることもしばしば。
 特に好きな作品は遠くから引きでみて、真正面からみて、最後は
 至近距離まで寄ってメガネをかけ直し(笑)、細部の筆致まで
 じっくり観察します。
 どう色を使えば透明のグラスに見えるの?
 奥行きや広がりの表現方法は?
 どんな風に筆を重ねれば離れてみたときに立体感が出せるのか…
 そうやってつぶさにみていくと、すぐれた技巧と緻密な工夫が
 施されていることがわかり、尊敬の念を新たにします。
 そして、最後にもう一度好きな絵をみて締めくくるのがルーティンの
 ようになっていますね。
 気持ちが鼓舞したまま、心地よい疲れとともに帰宅し、ミュージアム
 ショップで買ったグッズや図録などを開いて、その日みたアートに
 思いを馳せるのも、幸せな時間。
 存分にアートにふれた日は、高揚感に包まれたまま眠りにつくことが
 できます。






稀有な存在感の岡本太郎芸術に会える!

 東京都美術館は、敷地に足を踏み入れたとたん、アート空間へと
 いざなってくれるようなオブジェにも、歴史と風格を感じさせるレンガ調
 の建物にも心惹かれ、入館前から胸が高鳴ります。
 最近では「バルテュス展」(2014年)、「マルモッタン・モネ美術館
 所蔵モネ展」(2015年)、「ゴッホとゴーギャン展」(2016年)など
 にも足を運び、極上の刺激をいただきました。
 6月に拝見した「スコットランド国立美術館?THEGREATS 美の巨匠たち」
 もレンブラントの《ベッドの中の女性》の表現力に驚いたり、フレデリック・
 チャーチの《アメリカ側から見たナイアガラの滝》の圧巻の迫力に
 見入ったりと、名画の数々を堪能させていただきました。
 この秋開催される「展覧会岡本太郎」も、心待ちにしています。
 小学生のときに大阪万博に行き、実際に《太陽の塔》を見上げたことが
 あるのですが、会場にそびえたつその姿は凄まじい存在感で強烈な
 光を放っており、なんだか誇らしい気持ちになったのを覚えています。 
 絵画、彫刻、壁画と、多岐にわたる岡本太郎の芸術が一堂に会する、
 貴重な機会を逃したくありません。
 特に太郎の絵は、構図もユニークで魅了されます。
 なかでも《夜》という作品は圧倒的な力に対峙している女性の迫力が
 伝わってきて、物語の中にいるかのよう。ぜひその表現力を目の当たり
 にしたいです。

*撮影場所:東京都美術館 *2022年6月インタビュー





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