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家庭画報 2020年11月号

賀来千香子さんが巡る進化する銀座の”今”
 

 世界中がスローダウンした今春、この街もかってないほどの静けさに
 包まれました。
 初夏の声とともに息を吹き返した銀座には、装いを新たにしたお洒落の
 名店が、次々とお目見え。
 「やっぱり銀座は元気じゃないと! 再起動した新しいエネルギーを感じ
 ますね」と、高揚感に満ちた笑顔で語る女優・賀来千香子さんが、輝きを
 増した街の魅力をご紹介します。



特別な空間で至福のヘブンズタッチを楽しむ ロロ・ピアーナ銀座店
 

ブランド伝統のスーツケース・ストライプが印象的なケープを、ドラマティックに着こなす賀来さん。
「動くたび空気をまとってしなやかに波打つ様に、 うっとりします」と、華麗に翻るカシミヤシルクの
着心地に、笑顔が弾けます。


 世界の一流ブランドが軒を連ねる中央通り。
 その一角に、風にたなびくカシミアのごとき、優雅なファザードを
 擁した「ロロ・ピアーナ 銀座店」が今年6月に誕生しました。
 店の内部は、壁を飾るアートや階段の手すりに至るまでカシミヤを
 巡らせ、目でも手ざわりでも極上の素材を堪能できます。
 最上階の4階には、ラグジュアリーな個室でゆったりとコーディネート
 を楽しめるVIPルームをご用意。


賀来さんが一目惚れしたケープは、ロロ・ピアーナのアイコニックなデザイン。
「絶妙な立体感のフェンネルネックや、ウエストマークしたシルエットなど、クラシックな淑女気分
 になります。どの角度からでもスタイルを美しく見せてくれるように、計算し尽くされていますね」
と賀来さん。



 42色26モデルから選べるニットウェアのオーダーや、希少な最高級
 ウールである”レコード・ベール”などのマテリアルが揃い、お洒落の
 可能性が無限に広がります。
 「なんとも品のよい色合いはこのブランドでしか出せないニュアンス
  ですね。ソファからインテリア小物まで、手に触れるものすべてが、
  ロロ・ピアーナの哲学を物語り、その矜持が伝わってくるようです」。

  ロロ・ピアーナの魅力を熟知した賀来さんも、この特別な空間で体験
  する極上の風合いに、すっかり虜になったよう。
  さらに、ここ銀座店ではオープンを記念した限定アイテムや豊富な
  メイド・トゥ・オーダーを楽しむことができます。
  選び抜かれた至極の温もりに包まれる幸福感が、ここにあります。


シャンパンのおもてなしにくつろぎながら、心ゆくまで試着を楽しんだ賀来さん。
流れるようなシルエットを描くケープは、しっとりと肌になじむ極上の滑らかさも魅力です。




”開かれた”新時代の美術館へ アーティゾン美術館

 今年一年、約5年間の建て替えを経て誕生した「アーティゾン美術館」。
 1952年、都内最古の西洋美術館を紹介する場として開館以来、
 長く親しまれてきた旧ブリジストン美術館のDNAを継ぎ、新たな魅力を
 備えたアート空間を、賀来千香子さんが訪ねました。

新しい取り組みの一つがコレクションと現代美術の共演。10月25日まで開催中の
「ジャム・セッション 鴻池朋子 ちゅうがえり」展のカービング壁画作品
 『ドリームハンティンググラウンド』を前に、「どうしたらこの独特の世界観が発想できる
 のか興味深いですね」と賀来さん。



 実は、賀来さん、この日お目当ての絵がありました。
 4階に展示されているポール・セザンヌの代表作
 『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』です。
 「世界中でセザンヌ作品を鑑賞しましたが、この一枚は特別。
  奥行きのあるブルー、グリーン、ベージュが他の画家と違う。
  絵に立体感があり、思わず引き込まれます」
 と目を輝かせながら話します。
 「セザンヌは、面を重ねて物体の形を作る独特の筆使いが
  特徴だからです。それはマチスやピカソなど後世の画家たち
  に多大な影響を与えました」
 と今回ご案内くださった学芸課長の新畑奏秀さんは、教えて
 教えてくれました。
 「新収蔵作品として、セザンヌと同時期となる印象派の女性
  画家作品を揃えたのも見どころです。
  重要文化財クラスの作品もある日本近代洋画も注目して
  ください」。

 賀来さんは、新畑さんの解説のもと、一点一点じっくりと時間
 をかけて鑑賞。
 「女性の作品は色彩が美しいですね。優しい幸せな空気が
  流れているように思いました。
  日本の近代洋画では、青木繁の『わだつみのいろこの宮』
  に日本画のテイストを感じ、東西文化の融合に感動。
  物語がある絵画は本物に触れてこそ画家の筆圧や息吹が
  よく伝わります。今日は、貴重な出会いに恵まれました」。


「セザンヌの作品は女子美術大学在学時代、模写したぐらいに大好き。2800点の収蔵品の中で、
 この作品が飾られていたのは運命ですね」という賀来さんに、「セザンヌは専門家が関心を持つ
 画家でもあります。賀来さんの審美眼の高さが分かります」と新畑さん。
 4階「石橋財団コレクション選」にて。 


新美術館は3フロアにわたり、異なる企画展を鑑賞できる構成に。
6階オープンスペースではアーティスト田中信太郎の彫刻「ソノトキ音楽ガキコエハジメタ」、
4階では19世紀に活躍したフランスの彫刻家クリスチャン・ダニエル・ラウホ「勝利の女神」が
常設展示され、訪れる人を迎えてくれます。



 「アーティゾンの名は、アート+ホライゾンを組み合わせた
 造語で”美術の新しい地平”の意味。
 創設者の石橋正二郎が目指した、街中で立ち寄れる開かれた
 美術館を受け継いでいます」と新畑さん。
 今回の改装では、入り口を中央通り側に移動してわかりやすくし、
 外壁も大ガラスで開放感溢れる造りへと刷新。
 現代作品の企画展や日本美術の収蔵品の公開など、より芸術
 の幅を広げる工夫に加え、若い世代が入りやすいよう学生の
 入館料を無料にするなど、多方面にわたり取り組みを積極的に
 行いました。
 「先代から続く先見の明のおかげで私たちは本物を気軽に体験
  できるのですね。銀座を訪れる際に、ぜひゆっくり再訪します」
 と大満足の賀来さんでした。


3階〜5階は吹き抜けでつないだ空間になっており、ガラス窓から自然光が降り注ぎます。
「明るくて気持ちがよいですね」と賀来さん。




銀座を支え、本物の価値を生み出す 銀座もどじ

 銀座に暖簾を掲げ今年で41年を迎えた「銀座もとじ」を
 自然にふさわしく、凛とした白大島紬の装いで訪れた
 賀来千香子さん。
 社長の泉二弘明さんに、”銀座”への思いから、物作りに
 注ぐ情熱、次世代に向けた取り組みに至るまで、進化し
 続ける銀座の呉服店の魅力を、たっぷりと伺いました。

縦横無尽に枝を広げる鹿児島県喜界島のガジュマル並木から着想を得た、40周年記念作品の
白大島紬「木漏れ日」。
「風に揺らめくような木々の陰影が幻想的ですね」と賀来さん。
秋の大地を思わせる色彩で、縞の世界を創出する築城則子さんの小倉織の帯「蝕」が、端正な
艶めきを添えています。


世界初となる「プラチナボーイ」の糸の魅力を伝える社長の泉二弘明さんと、2代目の啓太さん。
美しい光沢はもちろん、養蚕農家をはじめ、一反にかかわったすべての作り手の名前が記された
証紙を目にして、「反物から職人の誇らしさが伝わってきます」と白く輝く繭や糸に触れる賀来さん。



 選び抜かれた日本の織物や、銀座スタイルとも呼べるモダンで
 品格に満ちた染の逸品、風合いや着心地も追求したオリジナル
 の作品…。
 洗練されたきものや帯に根を張り今年で41年を迎えました。 
 日本全国から集められた貴重な呉服で彩られた店を訪れた
 賀来千香子さん。
 社長の泉二弘明さんにまず伺いたかったことが、「銀座という
 場所を選んだ理由」でした。
 「奄美大島出身の私にとって、銀座は憧れの場所。
  一度の人生なら、世界中から目利きが集う銀座でチャレンジ
  したいと思いました。
  本物を知るお客さまに納得していただくには、自分の目で見て、
  作り手の声に耳を傾け、自らの言葉で語らなければよさは
  伝わりません。
  呉服店は、作り手の心を”伝える職人”にならなければ」と
 泉二さん。
 一流の審美眼を持つ銀座を訪れるお客さまに「もっとよろこんで
 いただきたい」という思いは、次第に唯一無二の糸から手がける
 プロジェクトへと発展していきました。
 それが世界初となる、雄のみの蚕「プラチナボーイ」の繭から
 採れる純国産絹糸を用いたきもの作りでした。
 反物を手に取った賀来さんは、上品な輝きにうっとりとしながら、
 「養蚕農家のかたの名前まで記されているのですね」と、その
 証紙に目を留めてます。
 そこには、生産者にもスポットライトを当てることで互いに意識を
 高め合い、真に上質な物作りを目指したいと願う、泉二さんの
 強い意志が込められていました。
 2007年からスタートして、このプラチナボーイによる作り手の
 顔が見える物作りは、4年前からお客さまの体験型プロジェクト
 にまで発展。
 「プラチナボーイ物語」と題したこの企画を手がけるのは、現代
 2代目として店に立つ息子の啓太さんです。
 「各地の風土に触れ、作り手のかたがたと交流しながら、お客
  さまご自身が蚕に餌をえり、その繭が糸になり生地に織り
  上げられる工程を見学し、実際に体験もしていただく。
  その醍醐味を提供できるのは、繭からきものをてがける私たち
  の使命だと思っています」。
 完成まで1年の歳月をかけるという、プラチナボーイ物語の
 きものが納品される際には、これまでの過程を撮影したアルバム
 が贈られます。
 心温まるエピソードに、深く感銘を受けた様子の賀来さん。
 「きものを介して人を結びつけ、誰もが幸せを感じられる仕組み
  を続けているのですね。プラチナボーイのきものや帯に感じる
  格別な美しさは、そこに注ぎ込まれた感謝の連鎖が放つ
  ”光”なのかもしれませんね」。

 さらに、銀座もとじから発信される感謝の形は、次世代へと
 つながります。
 それが20年以上続く、泰明小学校での柳染めの課外授業です。
 泥に触る機会のない銀座の子どもたちのために、今では奄美
 大島から大島紬の泥染に使う泥を取り寄せ、奄美の小学生と
 銀座の小学生をつなぐ交流の場へと広げています。
 「この課題授業は、私たちが銀座に育てていただいた恩返しで
  あり、私自身そうであったように、この街への憧れを地方の
  子どもたちへ還元したいという思いも込めています」
 と泉二さん。
 銀座という街への感謝のリレーは、コロナ禍で静まり返った
 時期にも活力を取り戻す一役を担いました。
 自宅に居ながらでも”銀ブラ”を楽しんでほしいという願いから、
 「銀座玉手箱」を企画。
 銀座の名店の商品が詰まったセットをネットで販売する取り組み
 は話題を呼び、街に希望の光を灯しました。
 「銀は磨き続けないと錆びてしまう。銀座の”銀”はそういう意味
  だと、先輩から教わりました。
  切磋琢磨しながら、これからも銀座を盛り上げていきたいです」
 という啓太さんの言葉に、
 「これぞ銀座のスピリットですね。なんだか胸が熱くなります」
 と賀来さんの顔に笑顔が弾けました。


「きものの礎となる生産者のかたを引き立てるということは、職人さんたちの
 意識改革というだけでなく、”誇り”を守ることでもあるのですね」と賀来さん。
泉二さんの話を伺い、いっそう愛おしい眼差しでプラチナボーイの繭を見つめます。





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