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女子美術大学 広報誌 第190号


表紙

 『ずっとあなたが好きだった』をはじめ、数々のテレビドラマや映画、
 舞台作品で、日本中を魅了してきた女優、賀来千香子さん。
 華々しいキャリアを支えるものは、女子美で培ったものづくりの精神と、
 広い意味での美への探求心だと明かします。

    Photo:土井文雄 Text:立吉和智


 



人生を彩る美とともに。


 私が絵を描くようになったのは、趣味で水彩画を描いていた祖父からの
 影響です。
 一緒に”月下美人”を写生したことを、今でもよく覚えています。
 着物をまとい俳句を嗜む粋な祖父からは、美しいものに向き合う喜びを
 学びました。
 とはいえ、画家になることを夢見て女子美の付属中学校へ進んだわけ
 ではありません。
 きっかけは近所に住んでいた在校生のお姉さんからの「家庭的でいい
 学校よ」という一言でした。
 両親も「中学から大学まで通して学べるなら安心よね」と大賛成。
 実際に入学してみると、聞いていたとおりの雰囲気で、勉強と部活動に
 のびのびと打ち込むことができました。
 付属高校に進んでデザインコースを選んでからは、課題の制作にも
 没頭したものです。
 時間を忘れ、徹夜で打ち込んでしまったこともしばしば。
 モデルとしてスカウトされたのもこの頃で、短大への進学後、18歳の
 ときには雑誌「JJ」でデビューを果たします。
 始めはポージングのイロハもわからず、大御所フォトグラファーの方
 からずいぶん叱られたことも。
 それでもめげずに続けられたのは、フォログラファーさん、メイクさん、
 スタイリストさんなど、大勢の人とひとつの作品を形にするプロセスに
 喜びを感じていたから。
 自分で表情や仕草を工夫できるようになると、この仕事がますます
 面白くなっていきました。
 女子美で学んだ色彩のことをフォルムに関する知識を生かせる仕事
 だったのも良かった。


 


 女優としての活動が主になった今でもモデルは大好きな仕事のひとつ
 です。
 その一方で、短大時間は生活デザイン教室で金属加工を先行し、
 ジュエリーの制作にも熱中しました。
 学ぶ、想像する、作る、毎日がその連続で、課題に迫られた日もあり
 ましたが、充実していました。
 モデル業と学業の両方に打ち込めたのは、私のことを気にかけ応援
 してくださった先生方のおかげです。
 今も心から感謝しています。
 卒業後の進路には迷いましたが、テレビドラマ『白き牡丹に』の
 オーディションに合格したことをきっかけに、女優の道を歩み始め
 ました。
 私にとって女優の仕事は、まさにワンチームのものづくり。
 プロデューサー、脚本家、ディレクター、その他すべてのスタッフたち。
 誰ひとり欠けても、素晴らしい作品は生む出せません。
 「冬彦さん現象」とも呼ばれる一大ブームを巻き起こしたテレビドラマ
 「ずっとあなたが好きだった」の現場もそのひとつです。
 この作品は、制作時の総合力も圧倒的でした。
 作品に関わるスタッフ・キャスト全員のベクトルがぴったり噛みあった
 結果、ありがたいことに視聴者の心をつかみ、記録・記憶にも残る最高
 視聴率34.1%という大ヒットに繋がったのだと思ってます。
 これまでの数々の作品で多くの役に出演させていただきましたが、
 ひとりの人間を造形するということは、とても奥深い仕事です。
 楽しくもあり、頭を悩ませることも多々あります。
 台本を読んでキャラクターのイメージがなかなかつかめないときは、
 不安になりますが「もし自分がこの人物だったらどうするだろう」と
 心から思いを巡らせていくと、いつの間にか不安も時間を忘れて集中
 しているんだす。
 試行錯誤の過程には苦しみがつきものですが、それを超えた先には
 必ず達成感がある。
 これこそがものづくりの醍醐味ですよね。
 それに一度は「うまくできた」と思った仕事であったとしても、後から
 「ああすれば良かった」と後悔がつきまとうもの。
 お芝居や美術には100点はないから続け甲斐があるのでしょうか(笑)。
 今後の目標をひとつにあげるとしたら、「うまい女優」ではなくて、
 「いい女優」になること。
 技術力がともなうのはもちろんですが、演技に人間的な魅力や味が
 にじみ出ている女優です。
 だからこそ、私は女子美で学んだ「美」を生かしながら感性を磨き続け、
 人生を豊かに彩っていきたいと願ってます。
 アート作品が持つ本物の美。丁寧な仕事が放つ美。情熱に宿る美。
 行動や心の美しさ。色々な美に触れながら、目の前のお仕事一つ一つ
 に感謝して、ていねいなものづくり。
 自分づくりの努力を重ねていきたいと思っています。


 






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